『ワンダフルワールドエンド』(2015)/松居大悟
純粋なものは純粋なままでいられない。
小さな芸能事務所で細々とモデルの仕事をしているしおり(橋本愛)は17歳。
田舎から上京し、劇団員の彼氏コウスケ(稲葉友)とアパートで同棲をしている。
しおりは生放送のチャットをひっそりと配信するのが日課だ。
もちろん彼氏がいることはチャット視聴者には知られてはならない。
チャットや撮影会など、ファンの前では自称かわいいキャラを演じている。
しかし、そのキャラもそこまで人気があるわけでもなく、
撮影会で着て来たゴスロリ服のウケも悪い。事務所の社長には注意される始末だ。
いわゆる、しおりはうだつの上がらない地下アイドル。
でも彼氏はいるし、チャットを開けば特定のファンもみてくれる。
満足はしていなくても、それなりの生活だった。
あるファン撮影会の日、
しおりと同じゴスロリの格好をした少女が、しおりをずっと見つめていた。
その少女はいつもしおりのチャットにコメントをくれるami☆=亜弓(蒼波純)だった。
ある日、家に帰るとなぜか亜弓がコウスケと一緒にいた。
家出をしてきたという亜弓はそのまま二人の家に居座ることになり——。
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”少女”という存在は純粋の象徴だ。
みんな純粋なものが好きだ。
例えば、ある少女がアイドルだとする。
アイドルには彼氏がいてはいけないし、
彼氏がいれば叩かれる。処女じゃなければがっかりされる。
アイドルとは消費されるべき存在でありながら、
消費されることを嫌われる。誰のものであってもいけない。
しおりもそういう少女を演じていた。
純粋である自分を演じることで、アイドルでない自分の生活とのバランスをとっていた。
本当に純粋なものに出会ったときに、
純粋でなくなってしまったものはどうなってしまうのか。
この映画は感情を言葉では多く語らない。
細かな表情のインサートや、演出がとても秀逸に感情を表現している。
むしろ言葉にしてしまったら、その繊細さは失われてしまうとわかる。
言葉にできない気持ちが伝わってくる。
大森靖子は純粋と狂気。
汚い気持ちもきれいな気持ちもうたってしまう彼女の歌はこの映画そのものだ。
大森靖子こそ、彼女たちー例えば売れない地下アイドルーの代弁者である。
恋もするし、セックスだってする。ネットカフェに泊まるし、うんこだってする。
磨り減りながら、発信し続ける彼女は、アイドルの鏡だ。
しおりが出会った、亜弓という少女は何も知らなかった。
自分が好きな人が正義でその人が好きなものがすべて正義だった。
好きな人の好きなものを好きになることが正しさだった。
しおりはそんな”純粋”に出会った。
”好き”という本当の言葉の意味を改めて理解した。
誰かを想うということはこんなにもまっすぐで壊れやすい。
危うい彼女たちはなぜかとても美しい。
橋本愛がうたう大森靖子の曲も一見(聴)の価値ありである。
東京の片隅、少しリアルなおとぎ話。
『ワンダフルワールドエンド』
2015.2.15