『報道の魂 あの時だったかもしれない』/是枝裕和(2008)
———座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル
テレビっ子であり、映像制作に関わる仕事をしている私にとって、
この作品は目からうろこ、というか自分の勉強不足と若さを思い知るというか
とにかく、すべてが興味深くておもしろかった。
村木良彦と萩元晴彦というふたりの演出家の存在を私は今日はじめて知った。
あるいは学校の授業なんかで名前は聞いたことがあったかもしれない。
けれども頭には残っていなかったし、テレビ番組の成り行きについては
あまり考えたことがなかった。
幼い頃なんとなく将来はテレビに関わる仕事がしたいと思っていた。
でもある時からそんなことも忘れていた。
だから業界について勉強もしなかったし、知識も乏しかった。
このドキュメンタリーの中で村木と萩元が制作したTBSの番組が出てくる。
『あなたは…』という印象的なタイトルのこの作品は
「あなたは今幸せですか?」「あなたは人に愛されてると感じますか?」
「あなたは誰ですか?」などといった17の質問を東京の街で老若男女に問う
といったドキュメンタリー番組だ。無機的に質問する女性インタビュアーは
まるで機械のようにみえる。それも狙いのひとつだったらしい。
当時の視聴率は日曜深夜の放映時間だったにも関わらず11%
賛否両論だったとはいえとんでもない人気を持っていたのだろう。
とにかく、この二人のつくる番組がおもしろくかっこいい。
とても斬新で、それはテレビと人間の本質を問うようなものであったように思う。
メディアを媒体した「時間」というものの感覚をとても意識してつくられた
彼らのドキュメンタリー番組は今観てもまったく色あせていない。
むしろ今こういう番組をつくってほしい。つくりたい。と感じさせてくれる。
作品観賞後の質疑応答で、是枝監督が
「時代のせいではなくて、やろうとする人がいないだけだ」
と言った。現在のテレビ番組に対する答えだ。
確かに、メディアの規制は厳しい。
アートは「わいせつ」だといわれるし、恋をしたら坊主にしないとならない。
誰もが疑問を持っているはずなのに、どこからか間違った正しさを植え付けられる。
出る杭は打たれるが、出ない杭は打たれない。打たれたくない。
そういった見えない力が、才能も勢いも消してしまっている。
だからこそ闘っているひとたちの作品はおもしろいのだろう。
村木と萩元は番組に対する抗議から結果的にTBSを辞めることになる。
メディアの大きな力に屈したのだ。しかしそれは彼らにとって負けではないと思う。
その後、彼らはテレビマンユニオンを設立する、ということも今日知ることになったが、
今日の話をなるほどと頭の中で整理して、もう一度是枝監督の作品を思い返せば
なるほどなるほど、と納得できるものがある。つながっている、と。
若者が希望を持って映像業界に飛び込んでいく。
大半はやめていく。
それは我慢か才能か努力か。
おそらくすべてであるが、生き残れる”なにか”があることには違いない。
まだまだ勉強不足だと思い知った。
生き残るために。
mimico.