『演劇1』『演劇2』

『演劇1』『演劇2』(2012年)/想田和弘





監督が平田オリザにワイヤレスマイクを渡す。
そのマイクが服とすれて聞こえてくるノイズからこの映画ははじまる。
「これでいいですか?」
ドキュメンタリーのはじまりだ。




想田監督の「観察映画」を夢中で観てしまうのは
あまりにも音がきれいに整音されていることが大きい。
激しく動く手ブレのカットでも、音だけはしっかり追って途切れることはない。
音にカットのつなぎ目が見えない。
しかし、突然映画は無音になる。
映画館はゴオーっという空調の音だけに包まれる。
すると私たちは映像に吸い込まれるようにスクリーンを見つめる。
そこだけに集中している。
すっかりやられてしまっている。
ノイズらしいノイズは映画のはじまりだけだった。



平田オリザは淡々と自論を語る。
劇中にもあったように「理路整然」と。
それが私たちには当たり前のように感じるが、
あれほどわかりやすく、納得できるように話すことは本来難しい。
それは平田オリザが教育者として、
全国のさまざまな年齢層に対して数え切れないほどのワークショップを開いてきた結果であろう。
言葉を選び、人に伝えることに長けている。
こう返せば、相手がこう出てくるというのもある程度理解しているのだろう。
もしかすると彼のしゃべっていることは、
相手との会話も含めてすべて台本なのかもしれない。



常にノートパソコンを持ち歩いて、台本と演技を照らし合わせている姿が印象的だ。
彼は何を想い台本を書いて、何を想い演出をつけるのか。
劇作家として、経営者として、講師として、父親として、
平田オリザは何役もを演じている。そこにあまり境目はみえない。
しかし、やはり彼も人間なんだよと思い知らされる。
ロボットも眠る。


この5時間42分は、無駄にならないはず。



mimico.

This entry was posted on 2012-11-12 and is filed under . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. You can leave a response.

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