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『幕が上がる』

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『幕が上がる』(2015)/本広克行



映画が終わった後、緞帳が降りる代わりにライトがついて拍手が聞こえた。

隣の席、男性二人組は「なんで拍手…」と笑っていたけど、目には涙を浮かべてて、それを拭いながら喋っていた。

周りを見ると男の人も女の人も泣いていた。
涙の理由は説明できないけど、涙が出るのはすごくよくわかった。


演出的に優れているだとか、映像的に素晴らしいだとか、ではなくて。


ただ、私たちは見せつけられる。
なぜだか、全編を通して涙がでそうになる。
それはきっと、スクリーンの中にいる少女たちが、本物、だから。

ももいろクローバーZというアイドルの枠組みを超えて、彼女たちは圧倒的に、ただの少女だった。


今しかできないことを堂々と見せつけられた時、私たちは感動して、立ちすくむ。

一度過ぎ去った時間は二度と戻ってはこないけど、そこにもう一度夢をみる。

まさに「青春」という文字が浮かぶ。

それは少し照れくさい、けれど、まぎれもなく美しい。

過ぎ去った時間に私たちは何を思う。

少女たちのまっすぐな瞳がつきささる。


吉岡先生が、自分のために生きると決めた強さに胸を打たれる。
それと同時に、気が付く。


ああ、こんなにも目の前に広がる青春から遠ざかってしまったのだな。


もう取り戻せないもの。
その大きさと比例して、スクリーンの中の少女たちの輝きは増す。


大人が大人でなくなる瞬間を、彼女たちは目撃する。

誰もがそうだったように、吉岡先生もまた、以前は少女だった。

そして再び輝き出す。

いま、輝いている。

黒木華さんの自信に満ちあふれた演技に、息をのむ。
役者としての彼女がそこにはありありと表現されている。



誰もが以前は少女だった。
それはむかしもいまも、ずっと同じ。





2015.3.8